政見放送は見過ぎると分からなくなる。

この日から、自宅で静養。
薬とサプリメントを飲みつつ、横たわり続けた。
しかし困った。エロスがないのだ。
さすがに我慢の限界。近所のコンビニまで行くことにした。

思い立ったのが昼2時。
台風が接近しているので恐る恐る外に出るも、少し風が強いだけ。
これなら大丈夫と、傘をさしていざ。

しかし平日なのに人ひとり歩いていない。
車もまばら。僕一人だ。
風の影響で少し難儀したが、何とかコンビニに到着。
案の定、客は誰もいない。
早く選んで帰ろうと思いエロスコーナーの前に立ち尽くすが、
そういえば、こんな田舎のコンビニでさえ、
エロス雑誌は立ち読みできぬように、テープで閉じられていることに気づく。
まずいジャケ買いや。
まだこっちにいた高校時分などはそんな規制もなかったもんだから、
まったく失念していた。
何とか選ぼうと思うが、なんとも品揃えが悪い。
正直、車改造する雑誌に質、量共に押されているのは何だ。
別に車を改造する雑誌も良いのだが、もうとにかく少ないのだ。
もう一件行くことにした。

外に出るとめちゃくちゃ雲行きが怪しい。
どうしようか、少し躊躇したが、また店内に戻って買うのは恥ずかしい。
台風が来ているというのに、ものすごく不謹慎な、性欲垂れ流し男と思われる。

もう一件はさらに徒歩15分のところにある。
もう引くに引けぬのである。
しかし、風が強まり、空は暗い。
急がねばまずいのだ。だがちょっとそこまで気分のためツッカケで来てしまった。
自分のチョイスを悔やみながらひたすら歩く。
ようやく到着。雨が強くなり始めた。
大急ぎで選定に取り掛かる。
もうここまで来たらミスは出来ない。
必ず大物を仕留めねばならないのだ。
ライトなやつはパスして、一際妖しさを放つやつを見つけた。
もういかんせん表紙の時点で目線がない。
なんでこんなのがコンビニに。
まあいいと思い、レジへ行こうとする。
が、参ったことにレジの若い女性はどこかで見たことある風貌。
同級生かそれに近い存在というのを、脳みその奥の方が覚えていた。
尻の手術に帰省の時点で恥ずかしいのに、加えて今年最大級の台風が近づき
みな恐れおののいている中、恐れ多くもエロ本を買うためだけにわざわざ
外出して来るとは、何と恐れ知らずの行為であろう。
しかし、ここまで来たら後には引けぬ、ひょっとしたら学生時代僕はめがねを
かけていなかったし、気づかないかもなどと自分を鼓舞する。
こうなったら別の物も買って、あくまでついでを気取ろう。
と思ったが、まずいことにエロ本に目がくらんで財布を持ってきてない。
小銭を握り締めてしかいなかったのである。
もうしょうがないので、買うしかないのである。
さすがにここまで来て手ぶらで帰るわけには行かない。
意を決してレジに並ぶ。
エロ本一本勝負。
まあそんなに大したハプニングもなく、無事購入できた。

そして強まる風と雨の中、必死に本を濡らさぬように帰途に着く。
来るときには気づかなかったが、川の近くを通りかかったとき、
近隣の家が土のうを玄関の前に積み上げているのを見たときは
さすがにやばいなあと感じた。
ほどなくして、家路を急いでいると向こうから消防車が来るではないか。
トロールか。ご苦労様ですと、思ったら、おもむろに僕の横で止まるではないか。

何だ!と思ったら消防士のおっさん
「兄ちゃん何しとるんや!台風が来てるのに、危ないやないか!」
と声をかけられた。
さすがにエロ本を買いにとは口が裂けても言えないので、
『いやあ買い物にちょっと…』
すると消防士、
「家どこ、乗せて行ってやろうか?」
これは渡りに舟!ちょうど雨風共に激しくなっていたから助かる!
しかも消防車に乗れるぞ!と思ったが、
何がどうして、消防車の中は消防士でいっぱいではないか。
何とか詰めれば僕も乗れるが、さすがにこの至近距離でエロ本を抱えては乗れない。
それこそ消防士の良い酒の肴になってしまう。
そう思い、泣く泣く
『いやもうすぐそこなんで!大丈夫ですよ!』
と気丈に振舞って見せた。ホントは後20分ぐらいかかるのに。
すると「そうかい。じゃあ気をつけてな。」
と消防車は去っていった。
なぜか僕は敬礼していた。